王国物語とサイドストーリー
伝説の敵のお話し
その昔、
ずっと、ずーっと遠い昔、
ある国に、五人の家族が住んでいました。
そこは、夏は太陽が激しく照りつけ、冬は大雪がつもる大地です。
その大地に、美味しいフルーツを実らせる為、家族は力を合わせ働いていました。
ある厳しい冬の事です。
おばあさんは、体をこわしてしまいました。
「私は、フルーツを生み出す大地を作り出すことができなかった、
でも、あなた達なら、
きっとこの国に美味しいフルーツを生み出す大地を作れると信じているわ、
あきらめず、みんなで力を合わせて頑張るのよ」
おばあさんは、静かに息を引き取りました。
家族は、四人になりました。
ある厳しい夏の事です。
お爺さんは、体をこわしてしまいました。
「私は、フルーツを育む水を導くことはできなかった、
でも、お前達なら、
きっとこの国に美味しいフルーツを育む水を導けると信じているよ、
あきらめず、みんなで力を合わせて頑張るのだよ」
お爺さんは、静かに息を引き取りました。
家族は、三人になりました。
ある厳しい冬の事です。
お母さんは、体をこわしてしまいました。
「私は、フルーツに与える光を和らげることはできなかった、
でも、あなた達なら、
きっとこの国に美味しいフルーツを育む光を照らすことができると信じているわ、
あきらめず、力を合わせて頑張るのよ」
お母さんは、静かに息を引き取りました。
家族は、二人になりました。
ある厳しい夏の事です。
とうとう、
子供が、体をこわしてしまいました。
「お父さん、美味しいフルーツを作るには、笑顔が必要なの、
お父さんならきっとこの国に
美味しいフルーツを生み出す笑顔を絶やさないと信じているわ、
やさしいお父さん、
おいしいフルーツを、みんなで一緒に食べたかったね・・・、
助けることができなくてごめんね・・・、
一人にして・・・、ごめんね、
笑顔を・・・・・、忘れないでね」
子供は、最後に小さな笑顔を見せ、静かに息を引き取りました。
周りには、もう、誰もいません。
お父さんは、フルーツに必要な大地や水や光や笑顔を
どうやって作りだせばいいのか分かりません。
深い深い悲しみの中、季節だけは静かに移り変わっていきました。
ある寒い日のことです。
いつものようにへとへとの体で、家族の眠っている場所に行きました。
ふと、あるものに気付きました。
「こ、これは・・・・・!」
お父さんは、驚きました。
なんと、
家族が眠っている場所に、
小さな小さなフルーツの芽が出ているのです。
その根は、今までに見たことがないほどしっかりしています。
涙が、とめどなく流れてきました。
そして、これまでにあげたことのない声をあげました。
それは、悲鳴となり、激しい叫び声に変わりました。
家族が求めたそれは、
苦労して耕した大地ではなく、家族が静かに眠る場所に芽吹いていたのです。
「これが、私達の求めていたものなのか、
こんなものより、
私は、
私は・・・、
家族と一緒にいたかった。
今、私にあるものは、
孤独だけだ、
悲しみだけだ、
この大地に対する深い憎しみだけだ、
私には、大地も水も光も作りだすことができなかった、
そして、笑顔の作り方も忘れてしまった。
一体、私達の努力は何だったのか?
私達は、死ぬためにこの国に生まれてきたのか?
誰か、教えてくれ!
・・・どこからともなく、声が聞こえてきます。
後ろを振り返ると、風が渦を巻いています。
渦の中の目がこちらを見ています。
「お前は、なんだ?」
「私は・・・、トロピカルストーム・・・、
ずーっと、君のことを見ていたよ」
「君は何も間違ってはいない、君の感じていることは正しい」
「私が、感じていること!?」
私が感じていること・・・、
それは・・・、
「強いものが、弱いものの上に成り立つという現実、つまり、摂理・・・」
私達の家族は、弱かった、
だから、フルーツの肥やしになった。
ただそれだけのこと・・・、
「しかし、なぜ?
なぜ、私だけを残す、
私には、もう孤独と悲しみと憎しみしかない。
私は、弱い存在でしかない。
せめて、摂理によって、私の命も奪われればどんなに救われたか、
なぜだ・・・、なぜ、私は生き残る!」
「その答えは、簡単さ・・・、君はね・・・、選ばれたのさ」
「私が・・・、選ばれた?」
「そう、
強いものは生き、弱い者はその糧となるという摂理を知った君は、
選ばれたのさ、
だから、教えてあげよう、
そこは、緑に囲まれ、水がわき、光に囲まれたはるか遠くにある国、
トロピカル王国、
その国が輝けば輝くほど、この国は影となる、
君達は、トロピカル王国に奪われていたのさ、
しかし、君は摂理を理解し、選ばれた、君は強者だ、
だから今度は奪えばいい、摂理のままに・・・」
「そうか・・・、私は、選ばれたのだ、
今度は、私が全てのものを奪い、糧とし、
そして、私の世界を作り出そう・・・、
そう、弱肉強食という摂理のままに・・・」
「くっくっく、私はトロピカルストーム、傲慢や嫉妬、憤怒が大好き・・・」
もう、男には父としての記憶はない、
「これが、私の弱肉強食の始まりだ・・・」
男は、家族の眠る場所に根付いた小さな芽を何のためらいもなく摘み取った。
この瞬間、自然の摂理の答えをめぐり、弱肉強食と調和の戦いの幕が開ける。
END