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2013/05/20

王国物語とサイドストーリー

Toropical Crime

この物語は、聞いてはいけない物語、読んではいけない物語・・・。

聞く者は、心暗くなり、深く後悔する。

それでもなお、聞く者は、覚悟せよ。

もう一度だけ繰り返す・・・、

この物語は、けっして、聞いてはいけない、

読んではいけない暗黒の物語・・・。

 

「私は、この国を愛している・・・」

「私は、国王の弟として、敬愛する国王の後ろ盾となり、

私の命が続く限り、この国を守っていく・・・」

これは、私のかたい決意・・・だった。

 

それは、ある日の出来事だった。

城の地下深く入ることを禁じられた部屋・・・、

その扉が、開いている。

私は不審に思い、おそるおそる入ってみた。

部屋には、誰もいない。

棚には、古びた本や古い道具が詰まっている。

ふと目に留まったのは、奥の棚にある小瓶・・・。

なぜか、それだけをのぞいてみたいと思った。

瓶の中には、丸い「何か」が入っている。

渦を巻いている何かが・・・。

私は、その不思議な瓶を、自分の部屋に持っていくことにした。

それから数日、小瓶の事をしばらく忘れていた。

 

ある日、

ふとしたことで、国王と意見が合わない事があった。

私は独り部屋に戻り、自分の考えを正当化していた。

ふと、小瓶が目に入った。

小瓶の中にある「何か」は、少し変化している。

その変化は、「目」。

いや、「目のようなもの」が、開いている。

それが、私を見ている。

私は、話しかけてみた。

「おまえは、何だ?」

小瓶の「何か」が答える。

小さな、小さな声で、

「私は・・・トロピカル・・・ストーム」

 

その晩から、私はトロピカルストームと話すようになった。

最初は、挨拶や簡単な単語を教え始めた。

日が経つにつれ、トロピカルストームは、私の良き話し相手となっていた。

次第に、王国の事、国王の事、国民の事・・・、

そして、私ならこうするという願望を伝えるようになっていた。

トロピカルストームは、より一層、私のことをもっと知りたがるようになった。

 

ある日の夜、

私が国王の事を話していると、トロピカルストームが話しかけてきた。

「君が・・・、

この国の国王になったらいいじゃないか」

私は驚いた。

そんなことは考えたこともなかった。

「兄である国王は、皆から愛され敬まれている、

私がその代わりになるなど、とんでもないことだ!!」

私は、はっきりとそんなことはできないとトロピカルストームに言った。

そして、明りを消した。

 

その時、

私は知らなかった、

暗闇の中で、

トロピカルストームが、ほほ笑んだことを・・・。

 

数日後、

王国に問題が起こった。

その問題が何であったか、今は思い出せない。

ただ、重大な問題で、最終的には国王の決定を仰ぐことになった。

国王の決定は、私と異なるものだった。

いつからだろう、

国王の決定に、私ならこうすると思い始めたのは・・・。

いつも以上に、納得ができなかった。

いつも以上に、腹が立った。

そして、

いつの間にか、

私のほうが、正しいと思い始めていた。

その日、部屋に戻り、いつものようにトロピカルストームに話しかけた、

私のほうが正しいということを、国王が間違っているということを・・・。

トロピカルストームは、奇妙な笑いを浮かべながら私に言った。

「君は・・・正しい」

そして、驚くべきことを言い始めた。

「君は、なぜ、国王を尊敬していると、

国王に従うと、毎日のように繰り返しているの?

まるで・・・、

自分自身に、言い聞かせているようだ」

驚きは、怒りに変わった。

「そんなことはない!!私は、心から国王を敬愛している」

「君は、素直になるべきだ、

もし、君が願うのなら・・・、私が力をかしてあげよう」

私は、憤慨した。

「ビンの中にいるお前に何ができる!」

トロピカルストームは、笑って言った。

「私は、トロピカルストーム・・・、

国によっては、ハリケーンやタイフーンと呼ばれている、

そして、

私は、使えるのさ・・・、腐れの魔法を・・・」

「腐れの魔法・・・!?

古代に滅びたといわれる禁呪、なぜおまえがそれを」

「遠い・・・、遠い昔、

私は、生命の木と戦い、力を奪われたのさ、

でも君と出会い、少しだけ力を取り戻せた」

 

私は恐ろしくなり、その瓶をあの部屋に返す決心をした。

「君は、もっと自分に素直になるべきだ、

君なりの方法で王国を統べたらいい、

自分の本心を隠し続け、この先もずっと自分に嘘をつき続けるのかい?

それに、君は・・・、もう・・・、後戻りできないのだよ・・・」

「何の事だ!」

「君の心は、もう、自分の嘘に我慢が出来ない」

「私を、よく見てごらん、もっと確かめてごらん」

私は、瓶の中をのぞいてみた・・・。

目を見開いてのぞいてみた。

「い、いない・・・!?」

瓶の中には、何もない・・・!!

「どこへ行った!!」

トロピカルストームの笑い声が聞こえてくる。

「もともと、私は、その瓶の中にいるわけではないのさ、

私は、空気中どこにでもいるし、どこにでも行ける、

私の好きなものは、嫉妬や強欲や憤怒、

君は、自分の中のそれらに耐えられなくなり、

小瓶の中に僕を見てしまったんだ」

「君の嫉妬や強欲や憤怒で、私はここまで大きくなった」

「素直に自分を受け入れたほうがいいよ、

君は、僕を見ることができた時点で、後戻りはできなくなったのだよ、

どんなにあがいても、

君の心はね・・・もうすぐ・・・壊れるのだから・・・」

トロピカルストームは、笑っている。

 

私は、気付いた、

私の中に、もう一人いることを・・・、

もう一人を、抑えることができない事を・・・。

これが、トロピカルストームの言っていた嫉妬や強欲や憤怒の力か・・・。

私は、理解した。

今までいた私は、「私」というただの「殻」だということを。

その殻は、とてもとても薄いものだった。

そんな私が、なぜ、国王の弟として生まれ出たのだろう。

なぜ、なぜ・・・。

 

今までの薄い殻の私が自制しようとしても、

もう、どうしようもない。

ふと、

もう一人の自分に素直になってみた。

「そうだ、私は、王国を滅ぼすのではない、

私なりの王国にするのだ、

このトロピカルストームと一緒ならできるはずだ、

国民も力を示せば、国王への敬愛を私に向けてくれるはずだ・・・」

それからは・・・、

記憶があいまいだ。

ただ、

最後に、トロピカルストームが、嬉しそうにつぶやいたことは覚えている。

「さあ、トロピカル王国を奪ってしまおう、滅ぼしてしまおう、私は力を取り戻す、

いだいな、いだいな、生命の木に会うのが楽しみだ・・・」

 

この物語は、

私の薄い殻が遺した最後の良心だ。

「・・・私は、この国を愛している・・・」

「・・・私は、国王となり、永遠に、この国を守っていく・・・」

「私」の意識が、遠のいていく・・・・。

END

 
 




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